三浦組|DXで事業のバトンをつなぐ~後編~

営工一貫の「強みと弱み」に向き合い、目指す100年企業


青森県南津軽郡藤崎町に根ざし、創業より70年以上にわたって総合建設業を展開する株式会社三浦組。「地域の家守り」として、また地域のインフラを支える要として、地域の発展とともに歩んでおり、町民からは「何かあったら三浦組」と言われるほどの信頼を築き上げている。

前編では、建設土木業を多角的に展開する同社の事業方針、三代目社長の三浦洋之さんが挫折を経て辿り着いた「地域」や「人」への想いについて詳しく紹介した。

しかし、2032年の創業80周年に向け、バトンを受け取る常務の三浦直樹さんの前には、解決すべき大きな経営課題が横たわっている。 続く後編では、北国ゆえの抗いようのない「自然の猛威」と、同社の強みである営工一貫体制が抱える「構造的なジレンマ」にフォーカス。事業承継における課題解決に向け、DX推進に挑む親子の奮闘に焦点を当ててお届けする。

三浦洋之氏
株式会社三浦組 代表取締役社長
青森県南津軽郡藤崎町出身。弘前工業高校土木科、八戸工業大学土木工学科を経て、新卒で八戸の建設コンサルタントに入社。結婚を機に26歳で藤崎町へ戻り、家業である三浦組に入社する。土木の現場監督として従事したのち、2014年代表取締役社長に就任。
三浦直樹氏
株式会社三浦組 常務取締役
神奈川県川崎市出身。建築関係に進む友人たちの影響を受け、設計職を志して建築学科へ進学。在学中に三浦洋之氏の娘である現在の奥様と出会う。洋之氏に就職の相談をするうちに入社を打診され、青森へのIターンを決意。2021年に新卒で入社する。建築の現場監督として働きながら、常務取締役として洋之氏を支える。

雪国・青森の「見えないコスト」との戦い

 株式会社三浦組の三代目・三浦洋之さんは、藤崎町で生まれ育ち、学生時代を弘前、八戸で過ごしている生粋の青森県民だ。一方、三浦家の娘婿に入り、四代目となる予定の三浦直樹さんは神奈川県川崎市の出身。藤崎町の住み心地を聞くと、直樹さんは「自然が豊かで住みやすい町です。ただ、やはり冬の積雪量には驚きました」と明かす。

藤崎町に隣接する弘前市は、2025年2月に観測史上最大の積雪量160cmを記録。雪の多い年・少ない年と差はあるが、それでも冬の積雪は同社の事業に大きな影響を与える。

三浦洋之さん(以下、洋之さん): 12月から3月上旬まで、雪に苦しめられる時期が続きます。積雪によって道路状況も悪くなって渋滞も発生するため、なるべく南津軽郡内の現場だけを請けたいのですがそううまくはいきません。以前、青森市の現場を受けたときには、移動に時間がかかるうえに積雪量もかなり多く、「いつ終わるのだろうか」と途方に暮れたのを覚えています。工期は平均1〜2カ月延びるのが当たり前で、その間の工程管理や職人の稼働管理には苦労します。

写真左から、株式会社三浦組 常務取締役 三浦直樹さん、代表取締役社長 三浦洋之さん

直樹さんも、冬場の現場作業の大変さを身に染みて感じている。

三浦直樹さん(以下、直樹さん):  昨年担当したフルリノベーションの現場では、雪が降り続くなかで解体作業を行いました。作業前に1時間程度の雪かきをしてから解体作業に入ったのですが、屋根をすでに取り払っていたため、作業をしている間も徐々に雪が積もっていって。結局午後の休憩後もまた雪かきからはじまるような状態で、寒さも厳しく体力的にもつらかったです。日没時間も早いので作業時間が削られてしまうのもネックです。

秋まで手一杯で冬にしか新しい案件を受けられない年には、積雪の影響があっても案件を受注するという。ただ、従業員にはなるべく大変な作業はさせたくない、しかしせっかく人手があるのだから仕事を請けたい……と、洋之さんたちは毎年難しい判断を迫られる。このジレンマに対し、同社は知恵を絞っている。

直樹さん: ここ数年は冬季も案件が入っていましたが、今後もし職人の手が空く時間ができたなら、冬季に技能実習をして技術力向上に努めたいです。先日中古物件を購入したのですが、これも職人が冬の間に作業ができるようにと考えてのこと。例えば、性能向上リノベーションを施して、お客様が断熱材の効果を体感できるようなショールームにするのはどうかと、構想を練っています。

洋之さん: 地元の工務店会やJBN(全国工務店協会)にも加盟し、横のつながりもつくっているので、人手が足りない工務店さんの現場に当社の大工が手間請けでヘルプに入ることも可能だと考えています。他の棟梁のもとで仕事をするのも大工にとっては良い勉強になるはずです。

同じ自然環境のなかで暮らしているからこそ、お客様も雪への理解は深い。工期が延びれば、コストが増えて原価率も上昇するが、そのぶんを含めた見積もりを丁寧に説明すれば、了承してくれるケースがほとんどだという。ただ、前編で紹介したが、青森県の平均年収は全国でもワーストクラスだ。「資材費・人件費が高騰しているぶんを価格転嫁したいが、受注に響くのではないかとためらってしまう」とも、洋之さんは話す。

「営工一貫」という強みが生んだパラドクス

雪国のハンディキャップに加え、事業承継を進める上でもう一つ、避けて通れない課題があった。それは、次期社長である直樹さんが「経営者」としての器を磨くための時間の確保だ。 洋之さんは自らの経験を振り返り、直樹さんにも外の世界で学び、成長する機会を持ってほしいと願っている。

洋之さん: 私は盛和塾への参加によって、経営者としての人間力を総合的に高められたと感じています。ですから直樹にも、新しい学びを得る機会を積極的に設けてほしい。彼の時間をつくるため、また社員がより働きやすい環境で仕事をしていくために、DXによって生産性を向上させたいと考えているんです。

しかし、その親心を阻む構造的な壁が立ちはだかっていた。それが、前編で三浦組の「強み」として挙げた営工一貫体制の裏返しだ。 同社では、一人の現場監督が営業、設計、積算、現場管理、アフターフォローまでを一貫して担当する。これが顧客の安心感につながっているのは間違いないが、同時に強烈な「属人化」を生んでいた。

洋之さん: 当社は、お客様から監督への信頼が本当に厚いんです。お客様からすれば「三浦組に頼んでいる」というより「◯◯監督に頼んでいる」という感覚が強い。だから、何かあると会社ではなく監督個人の携帯に直接電話がかかってくるのが日常茶飯事です。

直樹さん: ありがたいことですが、経営としてはリスクでもあります。お客様の中では「三浦組=担当の◯◯さん」になっているので、その監督が対応できないと、会社として他の人間が代わりに動くことが難しい。もしその監督が抜けてしまったら、お客様との関係性まで途切れてしまいかねないという危機感があります。

特定の監督に仕事が集中するため、その監督が手一杯になると、会社全体としては余力があっても新規受注を断らざるを得ない。

直樹さん: 会社全体としての受注の残体力が見えないんです。「まだいけるのか、もう無理なのか」が、その監督の頭の中にしかない。さらに言えば、私自身も現場を走り回っているので、経営者として会社全体を俯瞰する時間が取れない。このままでは、事業承継をしたとしても、私は一生現場から抜け出せないことになってしまう。

洋之さん: まさに「強みであり、弱み」なんです。私が引退するまでの残り7年で、直樹が経営に専念できる環境を作らなければならない。この状況を変えるには、属人化を解消し、チームで仕事ができる仕組みを作ること。つまりDXしかなかったんです。

30点の現在地。「正解」を求めてもがき続ける試行錯誤

属人化の解消と、次世代への継承。明確な目的を持って始まったDXだが、現場の現実は甘くない。最前線に立つ直樹さんは、その現状をどう見ているのか。直樹さんは率直に「ANDPADの活用度合いとしては、まだ30点」と自己評価する。

直樹さん: ANDPAD引合粗利管理は社内ですぐに利用が浸透し、案件管理や見積もり作成が効率化しました。フロント業務である見積もり作成などは業務の時短・効率化につながり便利さを感じやすかったのか、特に浸透が早かったですね。このまま請求まで一気につながってさらに効率化が進んでいけばと考えていました。しかし、ANDPAD受発注の活用が思ったように進まず、停滞しています。

当社の現場監督は、お客様との打ち合わせから設計、見積もり、施工管理まで一貫して担当するので多忙を極めています。そこに今まで担当していなかったANDPADでの発注業務が加わったので、「仕事が増える」といった印象を持たれてしまったのだと思います。慣れてしまえば楽になるのですが、まだ理解が進んでいません。

ANDPAD導入による業務効率化、と、理想はわかっているが、現実の業務フローが追いつかない。このジレンマに対し、直樹さんは「やり方を変える時期に来ている」と分析する。

直樹さん: 例えば、監督は承認ボタンを押すだけにして、入力作業は事務の方にお願いするとか、分業を進めないといけない。今は私がボトルネックになっている部分もあるので、まずは私が変わらないといけないと感じています。ANDPADの工程表もしっかり運用すれば、各現場の稼働状況が一目でわかり、無理のない受注計画が立てられるはずです。特に土木工事のような細かい現場の移動が多い部門では、ANDPADボードのような短期工事用のツールの方が合っているかもしれない。今は試行錯誤の連続です。

洋之さん: 導入するのは大変だとわかっていましたが、それでも「次の世代に残すためには必須だ」と思って決断しました。今の苦労も、将来会社を良くするための通過点。やり方は直樹に任せているので、彼なりの正解を見つけてくれればいいと思っています。

覚悟を持って変革に取り組み、DXで未来につながる仕組みをつくる

2032年、三浦組は創業80周年を迎える。その時、洋之さんは60歳。経営の一線から退き、直樹さんを中心とした新体制が本格稼働しているはずだ。 残り7年。それは長いようで短い。

洋之さん: 売上や利益も大事ではありますが、一番は社員が「この会社で働いて良かった」と思える会社にしなければならないと考えています。社員が幸せでなければ、お客様が幸せになる住まいを提供するのは不可能だと思うからです。DXも、そのための手段の一つ。業務が効率化されて、残業が減って、給料も上がって、家族との時間が増える。そういう会社を、次の世代に残したいんです。

直樹さんと、妻の果歩さん

現在、三浦組では事業承継の準備を着々と進めている。直樹さんが現場と経営の統括を担う一方で、財務や経理といった「金庫番」の役割は、直樹さんの妻の果歩さん(洋之さんの娘)が担っているという。

洋之さん: 銀行とのやり取りや資金繰りについては、今は娘がメインで見ています。彼女のほうが私より詳しいくらい(笑)。直樹と娘、二人三脚で経営していける体制を整えています。

直樹さん: 社長が敷いてくれたレールの上をただ走るのではなく、時代に合わせてより良い形にアップデートしていくのが私の役目です。今はまだ現場業務に追われていますが、人を育て、DXを進めて自分の時間を空け、経営者としての器を広げていきたい。そして、地域の皆様から「やっぱり三浦組だね」と言われ続ける100年企業を目指します。

雪国・青森の厳しい自然、人口減少、地域経済の停滞……どうやっても変えようのない環境を嘆くのではなく、同社は次世代のために変革への一歩を踏み出した。その挑戦はまだ道半ばではあるが、洋之さんと直樹さんからは、仕事への誇りと地域への愛、そして未来のために会社を変え続ける確かな覚悟が感じられる。

資産や役職を受け継ぐのではなく、覚悟そのものを受け継ぐことが事業承継であり、その覚悟を次世代に渡すための仕組みこそがDXであると、今回の取材を通じて実感した。洋之さんは、「来年ANDPAD AWARDにエントリーできるよう、ANDPADの活用に真剣に取り組みたい」と意欲的だ。この7年間で同社がどのような軌跡をたどっていくか、今後も継続して注目していきたい。

写真左から、直樹さん、アンドパッド担当の千葉、洋之さん

ANDPAD ONE編集部より
取材を通じて浮き彫りになったのは、雪国特有の稼働制限や、営工一貫体制による属人化、そして事業承継を見据えた組織づくりの必要性でした。 これらの課題に対し、アンドパッドでは、単なるツールの導入にとどまらない「経営課題解決のためのソリューション」をご提案しています。 7年後のバトンタッチに向け、三浦組がいま取り組むべきDXの全体像を以下に整理しました。

遠隔巡視に関しては、こちらの秋野弁護士による解説記事もご覧ください

株式会社三浦組
URL https://miura-gumi.jp/
代表者 代表取締役社長 ​三浦洋之
創業 1952年
本社 青森県南津軽郡藤崎町大字葛野字岡元18-3
企画: 平賀豊麻
編集: 原澤香織
執筆:保科美里
デザイン: 森山人美、岩佐謙太朗

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