前編では、日神工業がANDPAD導入によって達成した「残業504時間削減」という成果と、それを支える企業文化について紹介した。後編では、その成果を生み出すために行われた「具体的な取り組み(How)」に焦点を当てる。 推進チームの作り方、社内への浸透策、そしてANDPAD 3Dスキャンという新技術を定着させるための現実的なステップとは?
DX推進の「一丁目一番地」。「人柄」で選んだ推進チーム
新しいツールを導入する際、多くの企業が直面するのが「誰を推進役にするか」という問題だ。日神工業の解は非常にシンプルかつ戦略的だった。
神宮さん: 推進役には、迷わずショーンを指名しました。理由は彼とは地元の先輩後輩の間柄で人柄もよく分かっていたのと、社内で一番『おおらかで相談しやすい人物』だからです。 冗談のように聞こえるかもしれませんが、これは本質的です。新しいことを始める時、社員にとって最初の窓口となる人間の『印象』は極めて重要です。高圧的な人や、話しかけにくい人では、現場からのフィードバックが上がってきません。彼なら、誰に対しても謙虚で、柔らかく対応してくれる。だからこそ、彼を中心に据えました。

任命されたショーンさんは、社内の「ANDPAD問い合わせ窓口」を一手に引き受けた。

ショーンさん: 『使い方が分からない』『ここが不便だ』といった現場の声は、すべて私に集まるようにしました。重要なのは、右から左へANDPADのサポートに流すのではなく、『一度自分で全部触って、消化する』ことです。 自分で試して、『なるほど、現場はここで詰まっているのか』と理解した上で、ANDPADの担当者さんとの月1回の定例会で改善要望として伝えます。このフィルターを通すことで、フィードバックの質を高めることができました。
もちろん、導入当初からすべてが順調だったわけではない。
ショーンさん: 最初の頃は、社員から電話で『今までのやり方と違い覚えることが増えて困る』と言われることもありました。でも、それもコミュニケーションの一つだと割り切りました。 『これを使えば、帰ってからの事務作業がなくなりますよ』『スマホで撮るだけで終わりますよ』と、相手のメリットを粘り強く伝え続けました。反発を恐れず、でも丁寧に向き合う。この繰り返しで、徐々に『あ、これ便利じゃん』という空気が広がっていきました。
社内浸透に向けて。標準化と3Dスキャンの現在地
現在、エンジニアリング部では写真撮影と台帳作成がANDPADで完全に「標準化」されている。この標準化は、業務効率化だけでなく、思わぬ副産物を生み出した。
吉澤さん: 全員が同じやり方で作業しているので、誰かが早く終わったら、遅れている人の写真整理を手伝えるようになったんです。以前は属人化していて手出しができませんでしたが、今は『黒板入れておこうか?』と自然に助け合いが生まれています。 また、ANDPADの『黒板作成機能』が優秀で、現場で事前に黒板を用意しておけるので、撮影時間が短縮されました。現場にいる間に台帳がほぼ完成しているので、お客様にその場でiPadで報告書を見せることも可能になり、満足度向上にもつながっています。

一方で、ANDPAD 3Dスキャンなどの新技術については、まだ課題もある。
ショーンさん: 3DスキャンにはLiDAR機能付きの端末(iPhone ProやiPad Proなど)が必要ですが、現状では全社員には行き渡っていません。そのため、スキャンできる現場や担当者が限られてしまうのが悩みです。 この課題を解決するため、来期の予算で若手社員を中心にiPadを配布する計画を進めています。

取材では、ANDPAD3Dスキャンの実際の操作画面を見せていただいた
神宮さん: ハードウェアの壁は投資で解決できます。難しいのは『使いこなす』ためのリテラシーです。撮影自体は簡単ですが、そのデータをどう設計や見積もりに活かすか。今はまだ『まず使ってみて』という段階ですが、今後は社内勉強会などを通じて、具体的な活用ノウハウを共有していく予定です。

神宮さん: エンジニアリング部での成功を皮切りに、今後は他部署にもANDPADを広げていきたいと考えています。現在は他社の施工管理アプリが混在している部署もありますが、将来的にはANDPADに統一し、基幹システムとも連携させて、全社的なデータの一元管理を目指します。
選ばれる企業であり続けるために
最後に、3名に日神工業の未来について語ってもらった。

神宮さん: 建設業界全体で人材不足が深刻化する中、私たちは「安心して仕事を任せられる」と言っていただける確かな施工技術を磨き続けています。同時に、社員一人ひとりが「ここで働きたい」「成長できる」と感じられる環境づくりにも取り組んでいます。地域を支える企業として、お客様、協力会社様、そして社員の方々。関わるすべての人に選ばれる存在でありたい。
その想いのもと、施工技術の継承とは別に、各部社員を中心としたIT推進プロジェクトにも注力し、レバテック(株)との連携によるAWSサーバー導入や基幹システムの継続開発を進めています。
吉澤さん: 長く働いてきましたが、今の会社が一番変化していて、一番面白いと感じます。ベテランの経験と新しいツールが組み合わさることで、もっと良い仕事ができる。そう確信しています。
ショーンさん: 建設業界には『きつい・汚い・危険』というイメージがまだあるかもしれません。でも、DXによってその働き方は確実に変わりつつあります。 スマホやタブレットといった若い世代に身近なツールを使うことで、仕事へのハードルは下がりますし、直感的に現場を理解できるようになります。私が推進役として、デジタル化をきっかけに若い世代が輝ける環境をもっと作っていきたい。そして、業界全体のイメージを変える一助になれれば嬉しいですね。

日神工業のDX推進が成功した背景には、明確な戦略があった。まず、推進役に技術知識よりも「話しやすさ」を兼ね備えた人物を据えることで、現場の心理的なハードルを極限まで下げたことだ。そして、業務フローを標準化したことで、チーム内で互いにフォローし合う「お互い様」の文化が醸成された点も見逃せない。さらに、新技術の導入においては「面白そう」という好奇心を入り口にしつつ、ハードウェア投資や教育へと段階的かつ現実的なステップを踏んでいる。
「DXは難しい」と構えるのではなく、「まずは写真管理から」「推進役はあの話しやすい彼で」——。日神工業の等身大の実践は、多くの建設企業にとって、明日から真似できる希望のモデルケースとなるはずだ。
| URL | https://nisshin-kogyo.co.jp/ |
|---|---|
| 代表者 | 代表取締役 神宮 厚 |
| 創業 | 1948年 |
| 本社 | 栃木県宇都宮市東塙田二丁目8番41号 |